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<  2006年 06月   >
  • 住むところ (ソロモン諸島の村で⑥)
    [ 2006-06-18 23:43 ]
  • バンブークッキング (ソロモン諸島の村で⑤)
    [ 2006-06-04 01:26 ]
住むところ (ソロモン諸島の村で⑥)
高床で食べる
 床にあいた隙間からこげ茶色の地面がのぞいていた。メッシーの手にしたホウキに掃われてイモやら何やらのカスが吸い込まれていく。床下でココラコ(ニワトリ)がちょぼちょぼと首を動かしていた。
 ピーターの家は高床式で、床下は立って歩けるくらいの高さがある。物干しの紐やブランコ、ベンチも置かれている。床を支える柱は16本、床の面積は20畳ほどだ。床は10センチ幅の板材が並ぶ。指が入るか入らないかくらいの隙間がある。壁も板材、屋根はトタンになっている。
 前日の食事にはアンドルー(ピーターの甥、35)の子どもが加わっていた。双子でまだ一歳の彼らはたいてい素っ裸で村のなかを歩いている。ぽっこりふくらんだおなかでよたよたとどこにでも顔を出す。ピーター家の手すりのない階段も手をつき一段一段よじ登っていた。食事は入りこんだ家で食べてしまうようだ。
 階段をあがって入ったところは10畳くらいの居間になっている。正面にはテーブルが壁につけて置かれている。横にある窓は下半分だけガラスがついている。雨は風にあおられれば容易に吹き込んでくる。右手には小さな流しと食器棚がある。左手奥には小さな棚があって上にラジオが置かれている。
 鍋が流しのとなりの台に置かれた。イモはテーブルの上に積まれている。めいめい自分のスープとイモを持って散らばっていく。食卓を囲むというふうはない。テーブルは長いほうの辺を壁につけている。イスは4脚。イスに座らないものは床のうえに壁に寄りかかって座る。女性や子どもは床というのが多いようだ。部屋中にひろがったそれぞれがそれぞれのペースで食を進める。
 ツインズがスープ皿を床において食べていた。スプーンをグーの手で握ってすくう。スープやイモがぽろぽろと床にこぼれる。こぼすのは大人も一緒だ。食後のテーブルやイスは食べかすが散らばっている。
 ピーターはテーブルに向かって座っていた。メッシーは床に座り後ろの壁によりかかっている。
「今日はデイリーマーケットにおいたパンがよく売れたわ」
「今はコプラ(乾燥ココナッツ、輸出商品)の時期だからね」
そんな話が互いに向き合うことなく進んでいた。
 ネコがテーブルにのぼってきた。ピーターが「シーッ」と言ってひっぱたく。床に引きずりおろした。ネコを飼うのはネズミ対策だ。以前はたくさんいて食べものや服を食べられた。ネコを飼ってからはなくなったという。メッシーがときどき床に食べものをちぎって放る。ネコがそれをつまんでいく。
 夜の食事を照らすのはランプだけだ。食べ終えたタイタスがウクレレを弾く。子どもらが歌っている。メッシーが床の上に寝そべっていた。
 ピーターの家は、ダイニングルームの他に4つの寝室と物置部屋がひとつある。ピーターとメッシー、タイタスとジェミーという二人の子どもとワッタリー、それにアンドルーの子ども三人がここに寝ている。
 
 床の隙間は風の道になる。窓から吹き込んだ雨は流れ落ち、足が持ち込む泥もいつしか消えていく。食べかすも次の日にはココラコのえさとなる。部屋にはゴミ箱はなかった。

床下は作業場
  ピーターが床下のベンチに座って屋根の部品をつくっていた。サゴヤシの葉を縫い合わせて板状の“瓦”にする。サゴヤシはヤシ科の木で高さは15メートルほどになる。幅10センチ長さ1メートル半にもなる細長い葉をつける。
 サゴヤシの葉を半分に折る。半分にすると長さは6、70センチ。竹の棒を横に持って、5枚ほどの葉をかける。
「半分ずつが重なり合うように並べるんだ」
葉脈を目印にきれいに並んだ葉をココアレイのロープで縫っていく。ココアレイは親指くらいの太さの蔓性の木で縦に4つに裂いてロープにする。裏、表、裏と順々にロープを通す。終えるとまた葉っぱを竹にかけて繰りかえす。葉を60枚くらい使っただろうか、横幅3メートルほどの長方形の“瓦”が20分ほどでできあがった。
「ハードワークだよ」
次の瓦の芯となる竹をとりながらピーターが言う。横顔には、しかし、楽しさも混じっている。村の人が通れば作業をしながらも話に花がさく。畑のことや家族のこと、それにこのときは選挙のことがあった。
 屋根を作るのはタイタスもできる。次の日にやってみせようとしたがこれは失敗した。「この木はよくない」とふてくされていた。

屋根を縫う
 屋根の上にフランシスがいた。
「アリキ、ロープ!」
片手が下へのびる。
キッチンハウスの屋根の梁の上。危なっかしい作業だ。
「俺は軽いから」
フランシス(ピーターの又従兄弟)は屋根にのせたサゴヤシの葉にのっかってロープを屋根に通す。屋根はサゴヤシの“瓦”を順々に重ねた格好をしている。
「ピーター」
フランシスが呼ぶ。
 下で見守っていたピーターがサゴヤシの“瓦”をフランシスに渡す。今回作っているのは屋根の上部の部分だ。ここは、しばらく前に風で飛ばされて以来、ビニールで雨よけをしていた。
 フランシスは要になる一番上の所(棟)を縫っている。太い梁(棟木)に片側3枚、反対側1枚の瓦を3枚の側がやや上になるようにしてくくりつける。横から見ると“人”の字の型になる。縫うロープはロイケンという蔓性の木(籐)の幹だ。ココアレイと同じように幹を縦に4つに裂いて使う。
 一番上をつけ終えたらその下にとりかかる。ピーターが下から順次瓦をおくる。上の瓦を少し持ち上げて次の瓦を差し込む。差し込んだ瓦の上の辺に沿って竹を当て上にかぶさった瓦と縫い合わせる。3枚目より下の部分は先に葺き替えられている。屋根にぽっかりとのぞいていた空が閉ざされた。
「マライタ島北部地方の方法で縫ったんだ。このあたりのやり方より風に強い。村じゃ俺だけがこの方法でやれるんだ」
フランシスが得意そうに言う。まあたらしくなった屋根はなんだか頼りがいがある。キッチンハウスの周りには役目を終えた瓦がそのまま放置されていた。茶色く朽ちかけた葉が地面に寄りかかっている。
 キッチンハウスは屋根も壁もサゴヤシの瓦を敷き詰めてできている。梁には丸太か四角く加工した木材が使われている。瓦と瓦は竹を支えに縫ってある。畳8畳ほどのキッチンハウスの屋根にはサゴヤシの瓦が約50枚使われていた。

 村には屋根をサゴヤシで葺いた家とトタンをかぶせてつくった家が混在する。ピーターは15年前にトタン屋根に作り変えた。屋根をトタンに、壁を板材にした家はコパハウスと呼ばれている。最近ではこれが増えてきているようだ。
「コパハウスを建てるのは大事なことなんだ。長持ちするからサゴヤシのように6年おきに葺き替えなくてもいい」
ピーターが強調する。
「でもそれにはお金がかかる。建てようという家は家族みんなで必死になってためないといけない」
フランシスも新しくコパハウスを建てようと計画中だという。


サゴヤシを取りに
 屋根に使うサゴヤシは各家がそれぞれに育てている。ピーターのサゴヤシ林はクワライ川沿いにあった。ピーターとアリキ、それにピーターのいとこのジョージ(22)とともにサゴヤシの葉を取りに行った。クワライリバーをわたり、川沿いの茂みへと下りていく。じめじめとした地面。サゴヤシの葉が折り重なるように落ちている。葉にはときどき貝がついている。ブッシュシェルといい、海や川のものとは違う。焼けばこれも食べられる。
 サゴヤシのジャングルとでもいった感じのところにでた。日を受ける葉がまぶしい。サゴヤシは全身が葉っぱであるような外観をしている。若い木の幹は葉っぱの根元の部分のよう。緑色をしている。十分に成長したものは褐色の肌をもつ。ざらざらとささくれている。しがみついてのぼるのは痛そうだ。
 サゴヤシは一年で10メートル近くに育つ。6年ほどで葉がなくなり、実をつける。固くてとても食べられないという。実を落とすと枯れてしまう。

 葉を取るのにちょうどいい木を見つけた。幹から葉が分岐しているあたりまでは地面からおよそ7メートル。竹を切ってきて葉の付け根のところにかける。竹は各節から左右交互に枝が出る。枝を折ってしまうと付け根だけが残ってハシゴ状になった。川沿いでつりをしていた子どもを呼んできた。ナイフを持たせて竹を登らせる。竹をつたってあっという間にサゴヤシの葉の付け根まで登りきった。

 上からバシバシと葉っぱが落ちてくる。葉は羽状、葉芯は長いものは7メートル以上にもなる。左右に40枚ほどの小葉がついている。小葉は幅10センチ、長さは1メートル半くらい。落ちてきた葉をとり次々と葉芯から切り離す。あたりはあっという間に葉っぱだらけになった。
 ジョージがサゴヤシの葉芯を地面に挿す。4本の足の間が葉の集め場所になる。葉を拾い向きと長さをそろえて重ねる。
「葉の先まできれいなやつだけを入れるんだ」
 ジョージが先端の茶色くなった葉をほっぽり投げる。
 いつの間にかピーターが別のサゴヤシに登って葉を落としていた。アリキが下で葉を集める。置き場は三つを用意した。ひとつの場所に300枚ほどをためる。

 サゴヤシの葉芯の中身は白くやわらかい。発泡スチロールのようだ。ジョージがナイフで削り始めた。
 5分後、一艘のボートができあがった。モーターに柵、椅子までついている。子どもたちは舟でもトラックでも簡単に作ってしまうという。
 ピーターが長い葉を取ってきて縦に裂く。集めたサゴヤシの葉をしばる。束は“人形”のようだ。20キロ以上はある。肩に担いで村へと戻った。



 夕方、アンドルーの家にお邪魔した。家は小さく、壁も屋根もサゴヤシで葺いてある。ツインズが階段をうろうろとしていた。長女のホウケン(12)がイモとスープを持ってきてくれた。アンドルーは割れたランプをいじっている。ガラスのパーツをうまくはめ込んで形だけもとに戻す。火をつけるのに動かしたりすると崩れてしまう。毎晩の作業だ。ガラスがないと風で炎は消えてしまう。アンドルーの家の床はサゴヤシの葉脈を並べてでできている。隙間もきちんとある。イモをぽろぽろこぼしながら食べる。この日のランプは機嫌が悪かった。アンドルーが組み立て終わるころには一時間ほどが経っていた。

by ap23taka | 2006-06-18 23:43 | ソロモン諸島の話 | Comments(9)
バンブークッキング (ソロモン諸島の村で⑤)
 ピーター家の母屋と離れは6メートルほど離れている。間にはロープが2本、物干し用に張ってある。
 日があたりはじめたころだった。ワッタリーがロープに洗濯物をかけていた。床下のロープにあったものを移している。いい天気になりそうだ。南緯9度、この時期(3月)は頭の真上を太陽が通過する。晴れれば洗濯物はからっからに乾く。
 キッチンの横を抜けると、肌色の粒が散らばった台があった。バーレシー(ピーターの叔父)が両手ですくいあげては、ぱらぱらと落としている。米粒を乾燥させているところだった。日本のものよりは粒が薄い。

 村では、2年ほど前から米を作っている。畑で植える陸稲だ。植える時期は特にない。11週で収穫できるという。
 集落から100メートルほど、ヤシや雑多な植物の生える道を抜けると、ピーターの米畑があった。3アール弱くらいだろうか。ちょうど収穫期をむかえていた。
 ピーターやアリキとともに収穫にいった。かんかんの晴れ。真上の太陽が痛い。親類の子ども6人を含め、10人ほどが畑にきた。ナイフかハサミで稲穂の部分だけを切り取る。ひとふさひとふさをつかんでは切り、袋に入れていく。茎ごとは切らない。
「今年は虫が出て実入りが悪い。半分くらいはだめだ。みんながっかりしているよ」
ピーターは肩を落として言う。たしかに黒く軽くなっている穂がたくさんあった。花が咲いた後に薬品をまけなかったのだという。ピーターの米畑は丘の上の斜面にもある。畑の下にはちょっとした林。それを下ると村の水の採取口がある。
 米はこのあたりでは新しい作物だ。わらの利用といった文化はない。「植えるのはいいが収穫は大変だ」という声があがっている。もみ殻をとる脱穀機はアウキの方に行かないとない。利用にもお金がかかってしまう。商品までの道は険しい。

 米畑の収穫を終えて村に引き返す途中、ゴードン(ピータの義理のいとこ)が竹を切っていた。太さ7、8センチ、カオシと呼ばれる黄色の竹だ。屋根や壁をサゴヤシで縫うときの芯に使う。直径2メートルくらいの円状に“ごちゃっ”と集まって生えている。熱帯性の竹の特徴だ。たけのこが成長を終えた竹の根元から直接に出る(仮軸分岐する)。太陽を求めて外へ外へと生えるので円形に密生してくる。温帯性の竹は地面に平行に地下茎を張る。たけのこはその節から生長する。
 カオシのほかにカオという肌が緑の竹も育てられている。カオはカオシよりも細く、太さは3~6センチほど。かつては水や食料を入れる容器に使われた。今も釣りざおに使ったりする。鍋が来る前までは調理器具になっていた。

 ある日の午後,家の近くで暇をしていたタイタスをつかまえ、畑へ行こうと誘った。タイタスはピーターの息子、12歳になる。タイタスのいとこも一緒に行く。村の横からココナッツの畑、稲の畑、イモの畑などを通っていく。このあたりの平地は5,6年前までは森だった。農地の中には根元が黒く焼かれた高い木が立っている。空き家があった。持ち主はホニアラにいるという。タイタスたちは家の裏からタブケイの葉を取ってきた。くるくると器用に丸め,あっという間に帽子を作った。焚き木の燃えカスで顔をペイントしあって遊ぶ。

 丘の上へと続く急な坂道を登りながら,タイタスが畑でイモを食べようという。ピーターの畑は何ヶ所かにわかれている。最初についた畑でタイタスたちは竹をとりに行った。畑の脇のややくぼんだところに緑の竹、カオがかたまって生えていた。ブッシュナイフでたたくときれいに伐れた。竹をおいて次の畑をめざす。
 丘は畑だらけだ。一つ一つの区画は小さい。背の高い雑草が畑の合間を埋めていく。人はあまりいない。しばらく行くと,メッシーがイモを収穫しているところにでた。タロイモの畑だ。地面から抜いてはイモだけを切り取り持ち帰れるようにする。周りにはロッシも植わっていた。ロッシは高さ2メートルほど、茎の上部に茎と同じ太さの実ができる。実はトウモロコシの子どものよう。細い筒状で皮をむくと,黄色く細かいつぶつぶがつまっている。


 タロイモとロッシをもらいはじめの畑に戻った。焚き火の準備をする。落ちている小枝を集めて火をつけた。火種は焼畑をやっていたところから火のついた薪をもらってきた。とっておいた竹を持ってくる。タロイモの皮をむいて一口大に切り、竹の中に詰める。節と節の間の部分だ。片側の節は切り落としてある。切り落とされた側から詰め最後に葉っぱでふたをする。
 焚き火の上に置くと、竹は火に包まれシュウシュウと音をたてた。茎に含まれている水分のため燃え上がることはない。だんだんと肌が黒くなっていくだけだ。
 10分ほど火にかければ真っ黒になり、朽ちていきそうになる。こうなれば食べごろだ。手で簡単に茎を割る。竹筒の中で黄色味を帯びたタロイモが湯気をあげている。竹からしみだした水蒸気で焼き芋よりもしっとりしている。口によせると竹の香りがただよってくる。ココナッツも塩も砂糖もない。ただ竹の水気と香りがあるだけだ。
「ピーターは,畑作業にでるとこれをやりたがるのよ」
隣に腰掛けたメッシーが笑いながら言う。竹筒の料理は鍋などの容器のない時代の伝統的な調理法だった。昔は水を汲むのにも竹を使っていた。今のキッチンハウスには鍋がある。竹筒を使って調理をすることはない。
焚き火の上にロッシをおく。黒くなったらひっくり返す。
「カイカイ(食べなよ)」
タイタスが焼けたロッシを突きだす。こげた皮をむく。イモとロッシをほおばる。熱さでホッホッと声がでる。ピーターの気持ちがよくわかった。
 メッシーの隣にはメッシーが上の畑から担いできた荷物が置いてあった。収穫物や薪を入れた三つの袋は,合わせると腰掛けたメッシーよりも大きくなっている。軽く20キロはあるだろう。キリスト教が入る前までの風習では,荷物は女だけが持つものだった。男はその後ろをナイフだけを持って歩いた。いつ襲われてもいいように備えていたのだ。首狩や女さらいなどの習慣があったのだという。今でも,女性は大きな荷物を抱えて畑と村を往復している。
 日が傾いてきた。荷物は長い影をひいている。空はピンク色になってきた。メッシーの口笛が畑の上を流れていく。



by ap23taka | 2006-06-04 01:26 | ソロモン諸島の話 | Comments(2)